2016

2016/1/3
正しい者にだけ見える選択肢は初めから二重性を強い、前提にあるはずの愛情も形式的な欲望によって否定される。もともと平面でしか物事を捉えられない、つまり常にあらゆる土地で途方に暮れる醜さが、その二重性によってばらばらに引き裂かれる。受動の混乱と悲劇とが初めて感じた人生の肌触りだった。月が深海へ沈んでも、新しい朝の嘲笑から視線を逸らせなかった。
 
1/17
三時間くらい入浴した。湯船に浸かりながら友人が卒業制作で書いた小説を読んだ。
 
1/18
雪が降った。一日とても静かだった。近所のケーキ屋でガトーショコラを買った。
 
1/24
昨年は何となく観た映画をメモしていたので、新旧混合で面白かった映画を書く。順不同。
 
トゥルー・ロマンス
安藤昇のわが逃亡とSEXの記録
・神々のたそがれ
カイロの紫のバラ
・最高殊勲夫人
・女は二度生まれる
・博打打ち 一匹竜
・刺青
・リアリティのダンス
 
1/24
焦げ茶色のニットと白いベルトを買った。帰宅し、ジャック・リヴェットの訃報を知った。
 
1/30
ここ数日よく寝ている。今日も十二時間以上寝た。二時間くらい入浴し、風呂上がりにみかんを食べた。すっぱかった。子供の頃から「すっぱい」と「しょっぱい」をよく言い間違える。
 
2/3
深夜二時頃、吐き気がして目が覚めた。夕飯に食べたハンバーグが生焼けだったのかも知れない。帰宅してからで良かったと思った。
 
2/5
午前中仕事、午後仕事関係の資格試験。久し振りに平日の昼間に外出出来て感動した。日の暖かさや人通りの少なさだとかが懐かしくて涙が出た。わたしの血管は透明に透き通っていくようだ……。
試験会場が神保町だったので、さぼうるでバナナジュースを飲み帰宅した。永遠は自分の中にしか無いのだと思った。
 
2/14
自殺したくなるような天気。電車が少し遅れており、電車を待つ列の先頭に立ったサラリーマンの背中に、雲がすごい速さで流れていくため、早送りみたいに日が差したり翳ったりしているのを眺めた。
美容院へ行くため原宿へ。少し早く着いたので、表参道まで歩いてベン・アンド・ジェリーズでチェリー・ガルシアを食べた。クソみたいに滅入っていた気分が若干和らいだ。帰りに新しい下着を買った。化粧水を買うのを忘れた。
 
2/20
昼過ぎ起床。風呂に浸かり旧約聖書を読む。字が小さく読みづらい。十八時半頃友人宅へ行き、旅行の計画を立てる。泥酔して迷惑を掛けたくないため普段人の家ではあまり酒を飲まないが、今日は友人が酒を貰ったというんで日本酒を鱈腹飲んだ。水炊きを食べた。すべては忘れ去られ、終わっていく。
 
3/6
午前中試験。終わってから会社の同期に誘われ昼食を食べ、梅ヶ丘の梅祭りに行った。先程帰宅。疲れて何もする気が起きない。今週の日曜の晩に死にたい。
 
5/2
ゴールデンウイーク前半終わり。明日一日だけ会社がある。今日は午前中に起床し、ベルトルッチ特集を観に早稲田松竹へ行った。狭いロビーに人が溢れかえっており驚いた。整理券を配布していたので受け取り、フレッシュネスバーガーで一服してから十五時頃到着。先程よりすごい人集り。男女比は大体同じくらいだろうか、年齢層も様々だった。大学生の頃、初めて「ラスト・タンゴ・イン・パリ」を観た。誰もがそうかと思うが、とりわけ最後のタンゴのシーンと「十二夜」からの引用(「音楽が恋の糧であるなら続けよ」)がただただ素晴らしく、繰り返し観る映画の一つになった。初めて観た時に、わたしは銀座にあるシネコンでアルバイトをしており、そこで働いていた禿頭でウサギ狂いの社員が大のイタリア映画好きで、彼に「ラスト・タンゴ・イン・パリ」を観て面白かったと言ったところ「暗殺の森」と「1900年」のDVDを貸してくれたのだった。彼からは他にも「豚小屋」や「髪結いの亭主」などの映画をいくつか借りた。それらの作品を嫌がりもせず受け入れたのが嬉しかったのか、セクハラ紛いの言動に発展していったので素直に気持ち悪いと伝え、終わった。
閑話休題。今日観た「暗殺の森」は一般的にベルトルッチの父殺し、ゴダールとの訣別を描いた映画と言われているがゴダールがモデルのクアドリ教授はナイフでめった刺しにされて死ぬ。それはまあどうでもいいとして、劇中に出て来るクアドリ教授の電話番号が当時のゴダールが使っていた本物の電話番号らしく、個人情報保護法の無い時代は大変だなと同情を禁じ得ない。もしわたしがリアルタイムで観ていたら絶対ゴダールにイタ電した。それと、クアドリ教授の妻の名前がアンナで、そこは一切工夫しないんだなと思った。 「ラスト・エンペラー」は観たことが無いので観たかったが、疲れてしまったため帰宅した。ベルトルッチ作品はまあまあ観ているにも拘らず、有名どころの「ラスト・エンペラー」を観ていない。愛新覚羅溥儀の話は、小学生の頃竹野内豊主演のドラマで観て面白かったので興味はあるのだが。
 
5/7
今日は朝から晩まで楽しかった。こんな日はいつ振りだろう。誰もわたしに酷いことを言わないし、何も悲しいことが起こらない。大学時代の友人たちと府中競馬場に行った。初めて競馬に行った。馬券の買い方も新聞の見方も分からなかったが楽しかった。友人の一人が双眼鏡を持ってきており、パドックの時に借りて馬をよく見た。太陽の光で毛がつやつやと輝いており綺麗だった。結果は完敗だった。初心者なのに三連単しか賭けないのが悪い。友人の一人は一万くらい儲けていた。地下チンチロ頑張ろうと思った。夕飯を食べ、「ズートピア」を観に行った。ハムスター可愛かった。二十一世紀はうさぎどんもきつねどんもみんな仲良しでよかった。
 
5/11
数日前から、若尾文子が出ているからという理由で動画配信サイトで「おひさま」という朝ドラを観ている。若尾文子が出ていると言っても、彼女の役は井上真央演じるヒロインの数十年後で、ひょんなことから親しくなった来客者に過去の回想をする語り部なのでほとんど出て来ない。一度に何話も続けて観て分かったことだが、朝ドラとは毎日一話ずつ観るから良いのであり連続で観るものでは無い。ようやく一つの問題が解決したと思ったらまたすぐに次の問題が起こり、問題が問題を呼び、気の休まる瞬間が無い。ヒロインの人格に重大な欠陥があるのではないかと訝ってしまう。こういうハプニングをわくわくしながら観るのが醍醐味なのだろうが、いかんせんテレビドラマの観賞経験が乏しいため未だに慣れない。観たドラマで記憶に残っているのは、「スカイハイ」「トリック」「クイズ」くらいか。中学生までは性格が明るかったので他にも流行りの恋愛モノや青春モノのドラマも観ていたはずだが一つも覚えていない。楽しく観ていたのはこの三つだ。「ツイン・ピークス」もテレビドラマだが、わたしが産まれる前に終わっておりリアルタイムで観たわけでは無い。そう考えるとドラマを、しかも朝ドラをまともに観るのは初めてだ。散々書いたが、戦時中の一般女性(裕福な家庭だが)が主役の作品というのは他に知らないので面白くはある。あと井上真央は字がとても綺麗。字が汚いからと言って嫌いにはならないが、字が綺麗な人はそれだけで好きになってしまう。
水曜日は定時退社を推奨しているにも拘らず残業した。以前は月に一度くらいしか残業が無かったのに、最近ほとんど毎日残業している。帰りにランコムアディクションで化粧品を買った。オレンジ色が好きなのでそういった色の化粧品を使いたいのに、顔に全く似合わなくて残念である。
 
5/18
この一年、仕事しかしなかった。我武者羅に仕事をしたという意味では無く、仕事以外は寝るか消費するかで何もしなかったという意味である。消費では無く浪費というほうが正しいか。ただ物を買うだけの生活がこれから先も一生続くのかと想像し俄かに慄然とする。美しいものに触れても心に何も反映されない。いつも焦燥感と不安感に苛まれそれどころでは無い。返しそびれたフィルム、伝えそびれた謝罪、忘れてしまったそれらを必死で思い出そうとしている。
 
6/23
会社勤めするようになり一年と少し経つが未だにこの生活習慣に慣れない。すぐに疲れてしまい、常に眠気と倦怠感に苛まれている。職場に仲の良い人が居ないわたしを気遣ってかよく話し掛けてくれていた上司が異動になり、やたら二人で会おうと誘って来るようになり非常に悲しい。結局人間では無く穴の空いた女か。わたしは無い部分でしか存在しないのか。目映い光が複製され続け、その抜け殻の中に消えていく、裏ビデオの伸びきったテープ。
 
6/26
大学卒業後、農業を始めた友人が居り、田植えを手伝って欲しいと言われたので快諾、埼玉県北部へ行った。快特だか準急だかよく分からないがそういった電車に乗ったが、二時間近く掛かった。よくこんな距離を八年も通ったものだと思う。通えなかったから卒業まで八年要したのだろうが。
梅雨入りしたというのに陽の光が燦々と降り注ぐ絶好の田植え日和だった。てっきりズボンを膝まで捲り水田に足を浸して田植えするのだとばかり思っていたが、水は張らないと説明された。近隣の農家にやり方を訊いてみたが、誰もやったことが無いので失敗するかも知れないと言われ、まあそれは仕方無かろうと思った。わたしのほかにも別の友人四人と、農家の友人の友人で(紛らわしい)一度だけライブハウスで会ったことがある人が居た(この人はわたしのことを憶えていないようだった)。昼餉は神社の境内にある小さな公民館のような場所で、弁当屋で買った弁当を食べた。十七時半、疲労も限界に達し、友人宅で手足を濯いだり着替えたりし、居酒屋へ行った。麦酒が美味しかった。冷やしトマトやハツの塩焼き、山芋などを食べ、埼玉県の地酒を鯨飲した。田植えの最中に人差し指ほどの太さがあろう蚯蚓を何度も見掛けたという話になり、「蚯蚓のデザインは脳味噌に直接来る」と言ったら皆同意してくれた。終電が早いので十時過ぎ頃帰路に就いた。
 
7/10
一泊二日で富山県に行った。北陸新幹線に乗ったのは初めてだった。二時間足らずで到着し、驚いた。富山駅の駅ビルで、白海老の押し寿司と天麩羅、蛍烏賊の磯辺揚げを買った。その後、ラーメン好きの友人に付き合い大喜というラーメン屋へ行った。富山ブラックというんだそうだ。
高校生の頃にやっていたサイトで仲良くなった人に富山出身の酒飲みの子が居り、事前に羽根屋という銘柄を勧められていたので、探したが駅ビルには置いてなかった。酒蔵の場所を調べたが、宿から遠いということが分かり断念。観光案内所へ行き、羽根屋が置いてある酒屋は無いか尋ねると、歩いて十五分ほどの距離にあると言われ、そこへ向かった。今夜飲む分二本と、各々自宅へ配送する分とを購入。友人は自宅用に五本も酒を買っており、高給取りを羨ましく思った。宿に広いバルコニーがあったため、そこでずっと酒を飲んでいた。羽根屋はとても美味しく気に入った。特に夏季限定の物が美味しかった。
二日目は回転寿司で白海老を鱈腹食し、痛飲し、いろはというラーメン屋で白海老のラーメンを食べた。
 
7/12
有給休暇を取り、高校の友人とディズニーシーに行った。酷暑だった。映画館のような場所で、スクリーンになんとか言う亀が映写され、それと会話して楽しむという趣旨の遊技場があるのだが、亀が任意の観客を選出し、質問したりおかしな動きをさせたりし始め、当てられたらどうしようと不安で堪らなかった。わたしは何より参加するという行為が嫌いだ。学校で、先生が「甲だと思う人は挙手して」と言い、その後「乙だと思う人は挙手して」と言うことがしばしばあったかと思う。それでどちらにも挙手しない、非協力的で幼稚な生徒がクラスに必ず一人は居たかと思うが、その一人がわたしだ。ディズニーシーは楽しかった。
 
7/13
新しい物好きの友人がVRゴーグルなるものを購入したとのことで、友人二人と家に遊びに行った。VRゴーグルは弁当箱のような形および大きさをしており、黎明期なんだなと強く感じた。
 
7/28
長い一週間が終わった。昨日は泥酔した上に帰宅したのが深夜一時過ぎだったため、今日はいつにも増して眠たくて仕方なかった。会社の人が、ヴェルヴェッツやイギー・ポップの話をして来て、気を遣われているなあと思った。
十八時頃仕事を切り上げ、中目黒で友人と落ち合った。商店街の中にある洒落たイタリアンでワインを沢山飲んだ。昨日飲んだ店が肥溜めのような場所だったので、落差が大きかった。
 
8/6
朝から美容院に行った後、蕎麦を食べた。すぐに帰るつもりが、ぜんまいや蕎麦味噌を肴に昼間から飲んでしまった。その後日本橋で友人と映画を観、また酒を飲んだ。誕生日プレゼントを貰った。わたしは今月の下旬だが、彼女は来週なのに、何も用意していなかったので申し訳無く、嬉しい反面居心地の悪い思いをした。
 
8/8
台風で一日大荒れという予報だったが、早朝に一瞬雨が降っただけであとはいつも以上によく晴れた夏空だった。友人に薦められ、柴田聡子という人の曲をいくつか聴いた。日本のポップスはほとんど聴かないが、とても良いと思った。良いというか、凄いと思った。曲の作りも面白いし、伸びやかな歌声はずっと聴いていられる。五月にアルバムを出したそうで、コーラスやフルートを石橋英子がやっていると知った。なるほど確かに合っているなと思った。
 
8/9
男でも女でもどちらでも良いけど、まともな恋愛関係なんて一生築けない。この人にとって自分の代わりはいくらでも居て、いつか朝目が覚めたらどこか遠い知らない土地に可愛い人と旅立って、わたしは置いてけぼりを食うんだと想像し死にたくなる。人と仲良くならなければ見捨てられることは無い。もう何が素晴らしかったのか一つも思い出せない。
 
8/10
会社の飲み会だった。退屈というか嫌悪感しか無い。体調が悪くてとかなんだとか理由をつけてなるべく欠席しているが、久しぶりに出席したところ、上司と二年目の男の子が一年目の男の子(酒がほぼ飲まない)に無理矢理お酒を飲ませていた。見ていて不愉快極まりなく、あんまり可哀想だったので、わたしに注いでくださいと言って不味い日本酒を全部一人で飲んだ。やはり酒は一人か、気心知れた友人と飲むに限ると思った。帰りは大雨だった。
 
8/18
二子玉川で友人と花火を見る予定だったが、生憎の大雨のため予定を変更し、武蔵小山の駅前にあるピザ屋に向かった。駅に着く頃には雨も上がり、路地に入ると街灯の光が雨に濡れた道路を照らしていて綺麗だった。トマトのピザとチーズのピザ、フリット、鰯のマリネを食べた。
 
10/21
何が良ければ生きられて、わたしのどこが悪くてこんな風になっているのか。ずっと掴まっているこの手摺から早く手を離したい。